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真・まうんてんの宿屋

フィドル奏者 井上陽介のBlog。福岡近郊のパブに出現。なんか最近やきうネタ増えた。

ヴィブラートとピュアトーン

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最近Twitterで古楽系の指揮者絡みでプチ炎上案件を見かけましたので。
むかーしむかしに、このブログでもヴィブラートの事を取り上げたことがあったのですが、なんと10年前!
そのころはブログ主も駆け出しフィドラーで気が付いたらうっかりヴィブラートかかってたりしてましたが、もはやヴィブラートはかけない方が普通になってしまった今、ヴィブラートとかピュアトーンとか、開放弦の有無とか書いてみようと思います。

・ヴィブラート、かけたい?
やっぱりヴァイオリンやチェロをやってみたい!と思う方の多くはヴィブラートに大きな憧れがあると思います。これは古楽器の演奏が話題になり始めた90年代から今に至るまで、あまり変わっていないことのように思います。もちろん、ブログ主も学生時代にヴィオラを始めて、「いつになったらヴィブラート習えるんやろ?」とウキウキしてたのを思い出します。
先日のツイートでは古楽器系の指揮者がノンヴィブラートを要求してきたことに対する苛立ちもあったようです。子供のころからヴァイオリンを習って晴れてプロ奏者になった!ということであればヴィブラートに対する拘りなんかも分からないではありません(今どきのプロ奏者ならノンヴィブラートに今更どうこう言うのも違うとは思いますが)。
やはりヴィブラートをかければ多くの人が想像する弦楽器ならではの音色になりますし、ヴィジュアル的にもかけてると「おお~」という感じがして憧れる、というのは古今東西変わらないようです。


・実際にノンヴィブラートをやってみる
古楽器やアイリッシュなどではノンヴィブラートを要求されることが多いですが、「ノンヴィブラートな」「いえっさ」ですぐにできるわけではない、というのがブログ主の実感です。これはただ単にヴィブラートをかけないだけ、ということを意味するわけではありませんし、モダン楽器でのレッスンを受けており、かつヴィブラートを習得していない人が演奏すればノンヴィブラート・ピュアトーンの演奏になる、というわけでもありません。
ノンヴィブラートを要求される、ということはフレージングや演奏表現などが激変することを意味します。ノンヴィブラートにはノンヴィブラートならではの音楽があるのですね。ブログ主はいわゆるピリオド奏法という言葉が出てきたタイミングでクラシック音楽の演奏を始めましたが、思った以上にピリオド系の演奏は日本では普及していません。
例えば、ただ単にヴィブラートをかけないことだけを要求する指揮者などが増えてきて、それに対する反発・困惑などがあるのではないかとブログ主は推測しています。
このノンヴィブラート=ヴィブラート以外の演奏スタイルも大きく変わるということ、それに関する負担はけっこう大きいことを各指導者は把握しておかねばならないでしょう。
実際、ブログ主はアイリッシュを始めてからヴィブラートをかけずに演奏する、ということを始めましたが、当初は気が付いたら左手が勝手に揺れていたものです。「ヴィブラートをかける」という意識がない限りはヴィブラートをかけずにナチュラルに演奏できる、というところまで来るのに3~4年はかかった記憶があります。最終的に腑に落ちるようになったのはアイルランド滞在2回目の時くらいじゃなかったかな?それ以降はアイリッシュを演奏する時は装飾音的に使用するかエアーを演奏する時以外はヴィブラートはかけずに演奏してます。ただ、ヴィブラートを抜くのにこれだけ時間がかかったことを考えると、人様にはノンヴィブラートで!とは言いづらい、正直w


・開放弦だってむずかしい
フィドルを演奏されている方はとっくにご存じの事かとは思いますが、アイリッシュを演奏する時は開放弦を多用します。というよりも、よほど弾きにくくなければ開放の代わりに4番を使うということはないように思います。移弦するんだよ移弦!
最近はモダンオケでも開放弦を使うことが増えているようです。恐らくバーンスタインがニューヨーク・フィルに開放弦を使わせていたこととは異なる文脈で。
以前モダンオケでベートーヴェンの交響曲第7番を聴いたことがあったのですが、2楽章の一番盛り上がるところがあまり盛り上がらず、肩透かしみたいになっていたことがありました。終演後、詳しい人に聴いたのですが、その部分に開放弦を使わせていたそうです。それを聞いて腑に落ちたのですが、普段開放弦を使い慣れてない人が開放弦を鳴らすのはちょっと難しいところがあるように思います。
難しい、というと語弊がありますが、要は慣れてなくて戸惑ってしまうのではないかということです。これもブログ主の体験談ですが、アイリッシュを弾き始めたばかりのころは開放弦でそれっぽい音が出ずに苦労した記憶があります。
と、いうことで慣れないモダンオケで開放弦を使わせるならばそういったことに対するケアや、モダンオケで開放弦を使うことを踏まえた設計を指揮者は行うべきだったのです。


・ピリオドの準備をしておく
というわけで、モダン奏者がピリオド奏法を取り入れることは正直に言って簡単なことではないと思います。ちゃんと適応するのに年単位の時間はかかってしまうのではないかと思います。
しかし、今どきのプロ奏者であればそういう解釈に対する準備はしておくべき、というのは厳しい意見でしょうか?
付け加えると、そういった奏法を身に付けることで見えてくるものも確かにあるのです。
例えば、ブログ主は古楽でなくアイリッシュをやるためにノンヴィブラートにスタイルを変えましたが、ヴィブラートを使う際は以前よりも的確に使用できるようになったと思います。単に歌うため、という以外にも装飾的に使ったりできるようになりましたし、前ほど深くヴィブラートをかけずとも、効果の大きいヴィブラートをかけられるようになったと思います。
恐らく、モダンオケのプレーヤーもピリオド的な解釈に触れる機会は今後更に増えるでしょうし、ノンヴィブラートなどのピリオドスタイルはいざ指揮者から要求された際はすぐ対応できるようにしておくべきだと思います。
一方、指揮者はアマチュアのモダンオケにピリオド的な解釈を要求する際はオケ側が混乱することも含めて演奏解釈のオプションは用意しておくべきでしょう。


・アイリッシュでのヴィブラート
アイリッシュでのヴィブラートは必ずしもクラシックのように流麗にかける必要はありません。多少ぎこちないヴィブラートの方が味が合ってしっくりくる場合も多々あります。
有名どころではケヴィン・バークはエアーのみならず、ダンスチューンにもヴィブラートをかけてます。他にも部分部分でかけてる人はちらほらと見かける印象です。
ただ、ブログ主の考え方としては基本はあくまでヴィブラートなし、かけたい時は適宜かけるというのがベターではないかと思います。
ヴィブラートありきで音楽を作ってしまうと、ちょっと厚化粧な音楽になってしまうと思います。あえて濃いめの化粧をするのもアリだとは思いますが、化粧なしの下地はキチンと作っておきましょうね。
ヴィブラートなしで演奏できるようになると、なんの因果かちょっとしょっぱい感じのヴィブラートもかけれるようになります。そういった形でヴィブラートのスタイルもコントロールできるようになるので、ノンヴィブラートはアイリッシュ以外の人にも実はおススメできる奏法ではあります。
ヴィブラートなし、シュッとした演奏になるのでけっこう楽しいですよん。
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